奨学金を利用する際、将来の返済に対する不安を感じる方は少なくありません。しかし、現在の日本の奨学金制度、特に日本学生支援機構(JASSO)の利子は非常に低く設定されています。この「低金利の借金」を逆手に取り、手元資金を資産運用に回すことで、将来的に奨学金の利子を上回る運用益を得られる可能性があることをご存じでしょうか。
本記事では、奨学金の利子と資産運用の期待収益を具体的に比較し、どちらが経済的に有利になるのかを詳しく解説します。教育資金の準備や、社会人になってからの返済戦略に悩んでいる方にとって、資産運用の視点を取り入れることは非常に有益です。リスクとリターンのバランスを正しく理解し、賢いマネープランを一緒に考えていきましょう。
奨学金の利子と運用益を比較して賢く資産形成を考える

資産運用の世界には「レバレッジ」という言葉があります。これは、借りた資金を使って自己資金以上の投資を行い、効率を高める手法のことです。奨学金を資産運用の原資として捉える考え方も、広義のレバレッジといえるでしょう。
借金をして投資をするという考え方の基本
一般的に「借金をしてまで投資をするな」と言われます。これは、借金の利息が投資のリターンを上回ってしまうと、単に赤字を垂れ流すことになるからです。しかし、借金の利息が極めて低く、投資のリターンがそれを安定して上回る確信がある場合は、数学的な正解が逆転することがあります。
例えば、利子1%で100万円を借り、それを年利5%で運用できれば、理論上は差し引き4%の利益が手元に残ります。この差額を「利ざや」と呼び、プロの投資家や企業はこの仕組みを利用して資産を増やしています。奨学金は、国が学生の学びを支援するために提供している制度であるため、この利子が民間ローンに比べて圧倒的に低いのが特徴です。
もちろん、投資には元本割れのリスクが伴います。借金は必ず返さなければならない「確定したマイナス」であるのに対し、投資の運用益は「不確実なプラス」です。この確実性と不確実性のバランスをどう取るかが、奨学金と運用益を比較する上での出発点となります。
なぜ奨学金が資産運用の原資として注目されるのか
奨学金が資産運用の検討対象になる最大の理由は、その金利の低さにあります。日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金(第二種)の金利は、年度によって変動しますが、近年では0.1%〜0.9%程度(上限3%)と非常に低水準で推移しています。
この金利水準は、住宅ローンやオートローンよりも低いことが多く、個人が利用できる融資制度としては極めて好条件です。一方で、世界的な株式市場の長期的なリターンは年率4〜7%程度と言われています。この大きな金利差があるため、奨学金を急いで返済するよりも、その資金を運用に回したほうが効率的であるという考えが生まれます。
また、奨学金には「返済の猶予制度」など、不測の事態に対するセーフティネットが存在する点も、民間ローンにはない強みです。生活が困窮した際に返済を待ってもらえる権利を維持しつつ、手元に現金を残して運用することは、リスク管理の観点からも一定の合理性があると言えるでしょう。
投資リターンが利子を上回る「利ざや」の概念
奨学金の利子と運用益を比較する際、最も重要なのは「実質的なプラスがいくら出るか」という点です。これを理解するために、具体的な数字をイメージしてみましょう。仮に奨学金の利子が年0.5%で、投資信託などの運用益が年3%だった場合、その差は2.5%となります。
一見小さな差に見えるかもしれませんが、返済期間が15年、20年と長期にわたる場合、この2.5%の差が複利で効いてくることになります。100万円を2.5%で20年間運用した場合、元利合計は約164万円になります。つまり、奨学金の利子を支払いながら運用を続けることで、最終的に60万円以上の利益を生む可能性があるということです。
ただし、この「利ざや」を得るためには、長期的な視点が欠かせません。短期的には市場が暴落し、一時的に「運用益 < 利子」の状態になることもあります。それでも、奨学金の返済期間という長期スパンで考えれば、確実な利子を支払ってでも不確実な高いリターンを取りに行く価値があると考える投資家は多いのです。
利ざやの基本計算式
期待運用収益(%) - 借入金利(%) = 期待利益率
この数字がプラスであれば、理論上は「借りて運用する」ほうが経済的に合理的となります。奨学金はこの「借入金利」が極めて低いため、プラスを作りやすい環境にあります。
日本学生支援機構(JASSO)の利子の仕組みと現状の利率

比較を行うためには、まず奨学金の「コスト」である利子について正確に知る必要があります。日本の学生の多くが利用する日本学生支援機構(JASSO)の第二種奨学金には、2つの金利タイプが存在します。
第二種奨学金の「利率固定方式」と「利率見直し方式」
JASSOの第二種奨学金(利子付き)を借りる際、私たちは「利率固定方式」か「利率見直し方式」のどちらかを選択します。利率固定方式は、貸与終了時の金利が返済完了まで適用されるタイプです。将来的に世の中の金利が上がっても返済額が変わらないため、安心感があります。
一方、利率見直し方式(変動金利)は、概ね5年ごとに利率が見直される仕組みです。一般的に固定方式よりも開始時の金利は低く設定される傾向にありますが、将来の金利上昇リスクを負うことになります。どちらを選ぶかによって、資産運用との比較シミュレーションの結果も微妙に変わってきます。
運用の期待リターンと比較する場合、多くのケースでは「利率見直し方式」のほうが当初のハードルは低くなります。しかし、30年といった超長期で運用と返済を並行する場合は、固定方式で将来のコストを確定させておいたほうが、資産運用の計画が立てやすいという考え方もあります。
過去10年の金利推移から見る低金利の現状
JASSOの利率は、市場金利に連動して決定されます。日本は長く低金利政策を続けてきたため、奨学金の利率も驚くほど低い水準で維持されてきました。例えば、2023年度のデータを見ると、利率見直し方式では0.1%を下回る月もあり、固定方式でも1%に満たないケースがほとんどです。
この「0.1%〜0.9%」という数字がいかに低いか、身近な金利と比較してみましょう。一般的な住宅ローン(変動)でも0.3%〜0.5%程度、銀行のカードローンなどは年10%を超えることも珍しくありません。奨学金は、まさに「世界で最も有利な条件の借金」の一つと言えます。
このような超低金利環境下では、預金口座に現金を寝かせておくよりも、その資金を市場に投じたほうが「お金を増やすチャンス」が大きくなります。過去10年の金利推移を見る限り、奨学金の利子が運用の期待収益率(3〜5%)を大幅に上回るリスクは、現時点では極めて低いと考えられます。
利子の計算方法と返済総額への影響を把握する
奨学金の利子は、元金に対してかかります。返済が進むにつれて元金が減るため、毎月の返済額に含まれる「利息分」も少しずつ少なくなっていきます。これを「元利均等返済」と呼び、住宅ローンなどと同じ仕組みです。
例えば、300万円を20年(240回)返済で借りた場合、利率が0.5%であれば、利息総額は約15万円程度です。もし利率が1.0%であれば、利息総額は約31万円になります。これに対し、同じ300万円を年利3%で20年間運用し、一切引き出さなかった場合、元利合計は約541万円まで膨らみます。
利息として支払う31万円を惜しんで早期返済するのと、240万円の運用益(541万円ー300万円)を狙うのとでは、どちらが合理的かは明白です。もちろん、返済しながらの運用になるため実際の利益はこれより小さくなりますが、総額としてのインパクトの大きさを理解しておくことが大切です。
JASSOの金利は貸与終了時に決定されます。現在借りている最中の方は、自分がどの方式を選んでいるか、現在の参考利率がいくらかを一度マイページなどで確認してみることをおすすめします。
資産運用で得られる期待収益率のシミュレーション

奨学金のコストを確認したところで、次は「攻め」の部分である資産運用のリターンを見ていきましょう。初心者が取り組むべき投資の代表例であるインデックス投資を軸に解説します。
インデックス投資の平均利回りと歴史的データ
インデックス投資とは、S&P500(米国の代表的な500社)や全世界株式などの指数に連動する投資信託を購入する手法です。過去のデータを見ると、全世界株式インデックスの長期的な平均利回りは年率5%程度、米国株式(S&P500)は年率7〜10%程度の実績があります。
もちろん、これらは過去の実績であり将来を保証するものではありません。しかし、過去数十年という長い歴史の中で、一時的な暴落を経験しつつも世界経済は成長を続けてきました。奨学金の返済期間である15〜20年という時間を味方につけることができれば、年利3〜5%という数字は決して現実離れした目標ではありません。
奨学金の利子が1%未満であることを考えると、平均的な市場リターンを得るだけで、十分なプラスが生じる計算になります。このように、統計的なデータに基づけば、「奨学金の利子を支払いつつ、余剰資金を運用する」という選択肢は非常に強力な資産形成術となります。
新NISA(少額投資非課税制度)を活用した非課税運用の強み
運用益を最大化するために欠かせないのが「NISA(ニーサ)」の活用です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかります。例えば100万円の利益が出ても、手元に残るのは約80万円になってしまいます。しかし、NISA口座内で運用すれば、この税金が一切かかりません。
2024年から始まった新NISAでは、非課税保有期間が無期限となり、投資枠も大幅に拡大されました。これにより、奨学金の返済期間中ずっと非課税で運用を続けることが可能になりました。税金というコストをゼロにできるメリットは、奨学金の利子を上回る運用益を目指す上で非常に大きな助けとなります。
もし、奨学金の繰り上げ返済を検討しているなら、その資金を新NISAの「つみたて投資枠」に回すことを検討してみてください。支払う利子を減らす節約効果よりも、非課税で得られる運用益のほうが大きくなる可能性が高いからです。これは現代の日本において、最も効率的なお金の置き場所の一つと言えるでしょう。
運用期間が長くなるほど有利になる複利の仕組み
アインシュタインが「人類最大の発明」と呼んだ複利の効果は、資産運用において最強の武器となります。複利とは、運用で得た利益を再び投資に回すことで、利益が利益を生んで雪だるま式に資産が増えていく仕組みのことです。
例えば、毎月3万円を年利5%で運用した場合、10年後の元利合計は約465万円(うち利益105万円)ですが、20年後には約1,233万円(うち利益513万円)に達します。期間が2倍になると、利益の額は約5倍にまで膨らむのです。一方で、奨学金の利子は元金が減るにつれて少なくなっていくため、複利の力は及びません。
「運用(複利で増えるプラス)」と「奨学金の利子(減っていくマイナス)」を同時に走らせた場合、時間が経てば経つほどその差は拡大します。この時間による資産の爆発力を享受するためには、借金を一刻も早く完済することよりも、できるだけ長く市場に資金を置いておくことが重要になります。
奨学金を活用した資産運用のメリットと注意すべきリスク

数学的な計算上は、奨学金の利子を支払って運用したほうが有利であることが分かりました。しかし、現実の生活では数字以外のメリットや、数字以上に深刻なリスクも考慮しなければなりません。
手元のキャッシュを減らさずに投資を始められるメリット
奨学金を借りることで、あるいは繰り上げ返済を控えることで得られる最大のメリットは、「手元の現金を確保できること」です。資産運用において最も重要なのは、元本(タネ銭)の大きさです。たとえ少額の利子を支払ってでも、手元に100万円、200万円というまとまった資金がある状態は、投資において有利に働きます。
また、現金が手元にあることは生活の安定にもつながります。万が一、病気や失業などで収入が途絶えた際、奨学金を一括返済してしまって手元に現金がない状態は非常に危険です。逆に、運用に回している資金があれば、それを一部取り崩して当面の生活費に充てることができます。
このように、「流動性(お金の引き出しやすさ)」を確保しながら資産を増やせる点は、奨学金をゆっくり返しながら運用する隠れたメリットと言えます。借金は怖いものというイメージがありますが、低金利の借金は「現金を確保しておくための手数料」と捉えることもできるのです。
元本割れリスクと返済義務という最大の懸念点
もちろん、バラ色の話ばかりではありません。資産運用には必ず「元本割れ」のリスクが伴います。奨学金は、運用成績がどうなろうとも、1円単位まで全額返済しなければならない「義務」です。もし投資した資金が半分になってしまったとしても、奨学金の返済額が半分になることはありません。
最悪のケースは、暴落時にパニックになって投資資金を売却してしまい、確定した損失だけが残り、手元には奨学金の借金だけが残るというパターンです。これでは、利子と運用益を比較する前提自体が崩れてしまいます。資産運用を並行するなら、「何があっても返済を続けられる基盤」が必要です。
そのため、奨学金の原資を全額投資に回すのはおすすめできません。まずは生活防衛資金(生活費の3〜6ヶ月分)を現金で確保し、その上で余剰資金を使って運用するという基本を徹底しましょう。借金を背負いながらの投資は、通常よりも慎重なリスク管理が求められることを忘れてはいけません。
心理的な負担と借金に対する価値観の整理
数字上の合理性とは別に、「借金がある」という事実そのものがストレスになる方もいます。どれほど運用益が出ていたとしても、負債を抱えている状態が精神的に重荷になり、日々の生活の質を下げてしまうのであれば、早期返済を選んだほうが賢明かもしれません。
資産運用は、あくまで人生を豊かにするための手段です。夜も眠れないほど返済が気になるのであれば、その方はリスクを取りすぎていると言えます。自分の性格や価値観が「数字の合理性」を優先できるタイプなのか、「心の平穏」を優先するタイプなのかを、自分自身に問いかけてみてください。
もし中間的な考えであれば、例えば「ボーナスだけは繰り上げ返済に回し、毎月の余剰資金は新NISAで運用する」といった折衷案も有効です。100か0かではなく、自分にとって心地よいバランスを見つけることが、長期的な資産形成を成功させるコツとなります。
| 項目 | 奨学金を返済優先 | 運用を優先(返済は継続) |
|---|---|---|
| 精神面 | 負債が減る安心感がある | 借金があるストレスを感じる場合も |
| 経済的期待 | 確実な利子節約(年1%未満) | 不確実だが高い収益(年3-7%) |
| 手元資金 | 現金が減るため急な支出に弱い | 現金(運用資産)があり柔軟性が高い |
奨学金と運用益のシミュレーションによる具体的比較

ここでは、より具体的な数字を使ってシミュレーションを行います。実際にどの程度の「差」が生まれるのかを可視化することで、判断の判断材料にしてください。
年利0.5%の奨学金と年利5%の投資信託の差額
例として、300万円を20年間で返済・運用するケースを考えます。奨学金の金利は固定で年0.5%と仮定します。この場合、20年間の支払利息総額は約15万4千円です。毎月の返済額は約13,141円となります。
一方で、この返済原資とは別に、手元にある300万円を年利5%(税引き後)で運用し続け、20年間放置したとしましょう。すると、300万円は約796万円になります。増えた分は496万円です。支払う利息15万円に対して、得られる利益が496万円ですから、その差は圧倒的です。
実際には返済していくお金を運用に回すことになるため、これほど単純ではありませんが、それでも「利息の約30倍の運用益」が得られる可能性があるという事実は驚異的です。この圧倒的な期待値の差こそが、多くの投資家が「奨学金を急いで返さないほうがいい」と主張する根拠となっています。
繰り上げ返済をする場合と運用を続ける場合の比較
次に、社会人になって貯金が100万円貯まり、「これを奨学金の繰り上げ返済に充てるか、新NISAで運用するか」で迷った場合をシミュレーションします。奨学金利率は1%(高めに見積もり)、運用は年4%とします。
100万円を繰り上げ返済すれば、残り10年間の返済期間がある場合、節約できる利息は約5万円程度です。一方、100万円を新NISAで10年間運用し続けると、年4%であれば約148万円になります。利益は48万円です。つまり、5万円の節約を取るか、48万円の利益を取るかの選択になります。
もし100万円を繰り上げ返済に使ってしまうと、その100万円が将来生み出したはずの48万円を「捨てた」ことと同じになります。これを「機会損失」と言います。もちろん運用にはリスクがありますが、利率1%程度の借金を返すために、期待リターン4%の投資を諦めるのは、経済的には非常に大きな損失です。
ライフイベントに合わせた返済と運用のバランス設計
実際の人生には、結婚、出産、住宅購入といったライフイベントが訪れます。これらのイベントではまとまった現金が必要になるため、奨学金の返済と運用のバランスを柔軟に調整することが大切です。
例えば、20代のうちは奨学金を淡々と最低額で返済し、新NISAの枠を最大限使って資産を積み上げます。30代で住宅ローンを組む際には、手元の運用資産を頭金に充てることもできます。もし、奨学金の早期返済に全力を注いでいたら、住宅ローンの頭金が足りず、より高金利な住宅ローンを多く借りる羽目になるかもしれません。
人生全体で考えるなら、低金利な奨学金という負債をあえて保持し、流動性の高い資産(投資信託や現金)を厚くしておくほうが、リスクに強い家計を作ることができます。比較すべきは単なる金利だけでなく、「人生のどのタイミングで現金が必要になるか」という時間軸も含めた戦略です。
シミュレーションのまとめ:
・奨学金利子(コスト):年0.1〜1.0%程度
・運用益(リターン):年3.0〜7.0%程度(期待値)
・結論:長期的には、運用を継続したほうが資産額は数倍の差で増える可能性が高い。
まとめ:奨学金の利子と運用益を比較して最適な選択を導く
奨学金の利子と運用益を比較すると、数学的・経済的な観点からは、「奨学金は急いで返さず、余剰資金を資産運用に回す」ほうが圧倒的に有利である可能性が高いことが分かりました。JASSOの低金利制度は、見方を変えれば、若い世代に与えられた非常に有利な資産形成のチャンスとも言えます。
もちろん、投資には元本割れのリスクがあり、借金には返済義務があります。数字上の正解がすべてではありません。それでも、新NISAという強力な非課税制度がある現代において、1%未満のコスト(利子)を支払って、それ以上のリターン(運用益)を狙う戦略は、検討に値する合理的なアプローチです。
大切なのは、まず自分の奨学金の利率を正確に把握すること、そして「最悪の事態でも返済が滞らない」だけの生活防衛資金を確保することです。その上で、長期的な視点を持って複利の力を味方につければ、奨学金の返済という大きな課題を、資産形成を加速させるための足場に変えることができるでしょう。
「借金は早く返すべき」という固定観念にとらわれすぎず、広い視野で自分にとって最適なマネープランを描いてください。この記事が、あなたの経済的な自由への第一歩を後押しするヒントになれば幸いです。



